『Another 2001』は、第一作目の『Another』、第二作目の『Another S』の続編となっています。
この記事では、『Another 2001』の感想と評価や、作品を魅力的なものにしている要素などについて、書いてみたいと思います。
ネタバレはありませんので、読もうかどうしようか悩んでいる方も、この記事を読んで、ご参考いただければと思います。
あらすじ
夜見山北中学校の三年三組で起こる厄災(怪奇現象)について、三年三組の先生や生徒が、かつての同クラスの卒業生などの力を借りながら、立ち向かっていく物語です。
過去の厄災の時の対応を参考にして、三年三組の先生と生徒は、厄災が起こらないよう対策をします。
ですが、それが思わぬ事態を招いてしまいます。
これ以上は、ネタバレになるので控えますが、最後まで目が離せない展開になっています。
感想と評価
『Another 2001』は、間違いなく、面白い作品です。
この作品の最大の魅力を、ズバリいいます。
それは、『Another 2001』が醸し出す世界に、全力で引き込んでくれることです。
読んでいると、まるで自分が、夜見山北中学の三年三組のクラスの一員であるかのように、厄災に怯えたり、それを避けるためにはこうすればいいのではないかと対策を考えたりと、その世界に入り込むことができます。
作者は、本書のあとがきにて、「何かとストレスフルな”現実”をいっとき忘れて、少しなりともこの絵空事の中で楽しんでいただけたならば、作者としては大変に幸せである」と述べられています。
この作品を読んでいる間は、その世界に没入でき、日常とは違った感情や雰囲気を味わえて、本当に幸せでした。
本書の魅力と理由について
本書の魅力は、作品の描く世界にどっぷりと没入できることにあると書きました。
そのような魅力を持った作品を作ることは、実は、容易なことではないと思います。
特に、本書で生じる厄災は、とにかく非現実的で、普通は起こらないようなことが起きます。
読んでいて、あまりにも現実とかけ離れたものだと感じてしまうと、読者としてはあまり感情移入できなくなるものです。
ですが、不思議なことに、本書を読んでいると、厄災に一喜一憂し、一緒になって対策を考えようと思ってしまうのです。
それだけの「高い没入感」を生み出すことができているのはなぜなのか、以下に分析してみました。
身近な舞台設定
厄災が起こる舞台を、中学校のクラスに設定したことが、一つ目のポイントだと思います。
特別な事情がある場合は別として、中学校に通った経験はみんな持っています。
中学校のクラスを舞台に設定すれば、人それぞれ、何かしら具体的なイメージを浮かべることができるのです。
引き込まれる世界観
夜見山北中学校で起きる厄災は、とても非現実的なものです。
それを違和感なく感じさせてくれるのは、展開されている独特の世界観があるからだと思います。
身近な中学校でありつつも、そこには多くの謎がある。
読めば読むほど、その謎に深く、深く、入り込んでいきます。
ホラー(怖さ)とミステリー(謎)が、一体として融合しています。
謎が怖さを呼び、その怖さが、謎を更に深めていきます。
ホラー小説もミステリー小説も書ける作者だからこそ、実現できる世界だと思います。
完成しない会話と場面展開
通常は、物語の会話は、何度かやりとりをして、完結して終わります。
場面が変わる時も同じです。何かが起きり、それが終結して、次の場面となります。
ですが、本書で出てくる会話や場面展開は、完結せずに、次に移っていくのです。
会話は、尻切れになっていたり、歯切れが悪かったり、違和感を残して突然終わったりします。
場面も、中途半端に、何かにさえぎられたかのように終わって、次の場面に行きます。
そうして、次へ、次へと持ち越していくのです。
ですので、読者は、読み進めながら、もやもやしたものを抱えつつ、それをはっきりさせたいと思いながら、どんどんとその世界に入り込んでいくのです。
完成されずに次につなげていくことで、気づいたらその世界にどっぷりと入り込んでいます。
他にも、読者が物語に入り込み、その状態を物語が終わるまで維持するための工夫がされています。
それは、文中において、謎を解明する上で大事になるポイントとなる文字の上に、強調するための点が打ってあります。
読者は、その部分を心に留めながら、読み進めますので、読者の謎への興味が持続されます。
作者は、会話、場面展開、強調点、巧みな文体などを駆使しながら、読者が物語に没入できるようにしてくれているのだと思います。
ミステリアスなキャラクター
登場人物の中で、最もミステリアスな人物は、何と言っても、見崎 鳴(みさき めい)です。
彼女は、幼少時に左眼を失っており、母の霧果の作った青い瞳の義眼をはめ、普段はその上に眼帯を付けています。
ハードカバーの装画をご覧ください。
少女の顔が描かれており、何と言っても、その鮮やかな目の色にくぎ付けになります。
表紙だけを見ても顔の右半分しか見えません。
実は、背表紙まで見ると、顔の左半分が描かれているのです。
その左目には、透き通るような、どこまでも見通せるような、蒼き瞳があります。
美しく、奇麗で、恐ろしい。
この少女は、見崎をモデルにしているのだと思います。
作者は、この装画にこだわりをもっていたのではないかと思います。
それくらい、惹きつけられる眼なのです。
少し脱線しますが、『Another』がアニメ化された時、作者からの唯一のリクエストは、その主題歌をALI PROJECTが担当することだったそうです。
ALI PROJECTは、独創的なメロディ・歌詞と、先鋭的なビジュアルで、ファンを魅了するバンドです。
また、ビジュアルだけではなく、ALI PROJECTが持つ世界観に、作者は惹かれていたのだと思います。
逆に言えば、ビジュアルに、世界観が現れるとも言えます。
装丁のビジュアルは、この作品の世界観のコアになる部分を端的に表していると思います。
物語を読んだ後に、是非、装丁に描かれている左眼を見つめてみてください。
感じるものがたくさんあると思います。
象徴的な存在としての人形
見崎の家は、「夜見のたそがれの、うつろなる蒼き瞳の。」という人形専門店を営んでいます。
そのことも、見崎のミステリアスさを増す要素となっています。
本書では、主人公の比良塚 想(ひらづか そう)と見崎が、その人形ギャラリーで、厄災について話す場面が、度々出てきます。
静寂な人形ギャラリーで、棚の上やケースの中に置かれた多くの人形たちの視線が集まる中、生と死について語る二人。
無機質で、ひんやりとした怖さが、ひしひしと伝わってきます。
死者を想起させる象徴としての人形が、物語に独自の雰囲気をもたらし、読者はさらに物語の世界へ引き込まれていくのだと思います。
シリーズは完結か、続編はあるのか
『Another 2001』の魅力について、語ってきました。
次に気になることとしては、更なる続編があるのか、それとも本作で『Another』シリーズは完結なのかということかと思います。
本作のあとがきで、作者は、本作品が実に7年ぶりの新作長編であり、書き上げるまでに相当体力を使ったと述べています。
確かに、これだけの大作を仕上げるには、身体的にも精神的にも相当な負荷があったと思います。
『Another 2001』を読み終わった後の感想としては、これでシリーズ完結としても、全く違和感はありません。
一方で、夜見山北中学校三年三組は、毎年、新たな先生と生徒により、新学期を迎えます。
そういう意味では、この作品には、続編が生み出される余地が十分にあると思います。
作者の心身の体力次第となるでしょう。(作者もそのように述べています)
ということで、まとめると、シリーズとしては、一応は完結という理解でよいと思います。
そして、仮に続編が出たら、それはそれで楽しめること間違いなしだと思います。
文庫化されるのか
ハードカバーではなく、文庫化を待ちたいという方にとっては、いつ文庫化されるのかが気になるところかと思います。
一作目の『Another』は、ハードカバーが2009年10月に、文庫版は角川文庫から上下2分冊で2011年11月に発売されています。
続編の『Another エピソードS』は、ハードカバーが2013年7月に、文庫版は角川文庫から2016年6月に発売されています。
一作目は2年後、二作目は3年後に文庫化されていますので、『Another 2001』についても、今後、文庫版が発売される可能性はかなり高いのではないかと思います。
一般的には、文庫化は2~3年後にされるケースが多いです。
もちろん、文庫化される時期については、ハードカバー版の売れ行きや、映画化など様々な要因によって左右されるため、はっきりしたことはわかりません。
あくまでも予想の域を出ない話ですが、過去の2作が2~3年で文庫化されていることも合わせて考えると、『Another 2001』のハードカバーが2020年9月30日に初版発売されていますので、それから2~3年後と考えると、2023年あたりには文庫化が期待できるのではないかと思います。
なお、個人的には、『Another 2001』については、ハードカバーの装丁と分厚さが醸し出す雰囲気が『Another 2001』にとてもよくマッチしているので、ハードカバーをおススメします。
アニメについて
一作目の『Another』については、アニメ化(全12話)され、2012年1月9日から同年3月26日まで、TOKYO MXなどで放映されました。
原作の重々しいミステリアスな世界が、アニメという映像を通じて、より明確に表現されているように感じました。
『Another 2001』については、まだアニメ化されていませんが、アニメだからこそ表現できる色、空気、テンポがあると思うので、アニメ化された際には、是非見てみたいと思います。
おわりに
『Another 2001』の感想や評価などについて書いてみましたが、いかがでしたでしょうか。
文庫化、アニメ化、更なる続編と、このシリーズには、まだまだ期待できることがたくさんあると思います。
この記事を通じて、『Another 2001』の魅力を少しでも伝えることができたら、幸いです。
是非、ご一読ください。
