その一手を信じて 映画「3月のライオン」の感想

映画

1.はじめに

「3月のライオン」は、1992年6月10日に公開された映画で、将棋の物語です。

原作は漫画で、棋士の先崎学さんが監修を務めるなど、正面から将棋を扱った作品です。

ですが、将棋に詳しくない方でも、十分に楽しめます。

なぜなら、この作品は、将棋を通じて人間そのものを描いている作品だからです。

2.あらすじ

高校生の天才棋士、桐谷零の物語です。

桐山零は、幼い頃に両親を亡くし、父親の友達であるプロ棋士の幸田に拾われ、幸田家で育ちます。

零は幸田家で、長男の歩、長女の香子とともに、将棋の腕を磨いていきます。

零は強くなるしかありませんでした。

零には将棋しかありませんでしたから。

将棋が弱くなっては、幸田家にいれなくなると思ったのでしょう。

現実は皮肉で、零はめきめきと力をつけてプロ棋士になります。

一方、幸田家の歩と香子は、零にはかなわず、プロ棋士の夢を諦めることになります。

そして、歩と香子にとって、将棋は嫌悪すべきものになります。

香子は、将棋と零が、幸田家を壊したのだと零を恨みます。

将棋以外、何ももっていない零が、どのようにもがいて、苦しみながら、棋士としてのライオンになっていくのか、とても感動する物語になっています。

3.題名について

監修を務めた棋士の先崎学さんによれば、棋士の順位戦は、6月に始まり、昇級・降級を賭けた最終局が3月に行われるため、棋士が3月にライオンとなる旨をコメントされています。

3月というのは、棋士のとって重要な月だからこそ、3月を題名に持ってきているのかもしれません。

4.キャスティングについて

主人公の桐山零役は、神木隆之介さん。

内気で、コミュ障で、でも芯の強さがある主人公を本当によく演じられていると思います。

それに、後述しますが、最後のシーンの零の表情

あんな表情ができる俳優、素晴らしいと思います。

また、零が育った幸田家の長女、香子役を演じた有村架純さんの大人っぽい名演技と、それと対照的な素朴な女子高生の川本ひなた役を演じた清原果耶さんの名演技も光りました。

さらには、強敵の後藤正宗役の伊藤英明さん、A級棋士の島田開役を演じた佐々木蔵之介、師匠役の幸田まさ近い役を演じた豊川悦治さんというお三方の重厚な演技や、名人の宗谷冬司役を演じた加瀬亮さんの静かな演技に支えられて、零の存在がより一段と際立つ、そんなキャスティングだったと思います。

5.最高の名場面について

一番心に残っているのは、最後の場面です。

獅子王戦に挑戦する零と、迎え撃つ宗谷名人とが、将棋盤を挟んで、これから戦いを始めようと見つめ合う場面があります。

実は、二人は対戦するのはこれが初めてではありません。

新人王になった零が、宗谷名人と初めて対戦し、善戦しつつも零は負けてしまいます。

二度目の対戦となった最後の場面。

ですが、零はかつての零ではありませんでした。

もちろん将棋の棋力も強くなっています。

ですが、それだけではないのです。

師匠、師匠の幸田家の家族、学校の先生、川本家の家族の人々、いろんな人と交わり、苦悩し、ぶつかり、そして支えられて、零は今、その場に座っています。

将棋盤を挟み、宗谷名人が顔を上げて、零を見た時の表情に心を惹かれました。

宗谷名人は、おやっとした表情を一瞬見せた後、姿勢をスッと伸ばします。

まるで、以前の零とは一味違っていることを一瞬で見抜いたかのように、私には思えました。

そしてお互いに一礼して、カメラは零の表情にクローズアップします。

その零の表情に、トータル三時間の物語の帰結が、見事に表れていました

6.おわりに

将棋を打つのは人間です。AIではありません。

その一手には、単なる駒打ち以上のもの、棋士のこれまでの想い、苦悩、人生そのものが、のっているのだと思います。

将棋の素晴らしさ、将棋を通して人生に向き合う棋士の素晴らしさを味わえる作品でした。

おススメです。

タイトルとURLをコピーしました