ハイパーたいくつ(松田いりの) 第61回文藝賞受賞作品のあらすじと感想&考察

新鋭の注目小説

📁新鋭の注目小説 【私の評価】★★★★★(95点)

あらすじ

あらすじを書くことがこんなに難しい作品も珍しいと思います。

とにかくぶっ飛んでいます。

ストーリーというものがあるのかも疑問で、断片的なものが組み合わさって、一つのモザイク画のようになっているように感じます。

主人公は一人の(少し気が狂っている)女性。

コミュ障だったり、妄想症状があったりして、人と関わることが、とっても難しい女性です。

そんな女性が、(ある意味信じられないことですが)会社で社員の一員として働いています。

当然ながら、遅刻したり、大きなミスを犯したり、女性リーダーに多大な迷惑をかけたりします。

この女性リーダーとの奇妙奇天烈な関わりが、作品を通した主題になっていると思います。

推しの点

この作品の魅力は、一言で言うと、「面白い」ということにあると思います。

物語の中盤で、女性リーダーが職場で踊り出す場面や、女性リーダーと長髪の職場の男性が肩車をしている場面など、秀逸です。

町田康さんのような感じを受けましたが、似て非なる部分もあるかなとも思います。

選考委員の町田さんも受賞に推したとのことなので、作品の完成度が高いのだろうと思います。

そして、こうしたハチャメチャな作品は、終わり方が難しいのだと思いますが、最後には、人との関わりについての結論(オチ)もちゃんと付いていて、その点でも見事だと感じました。

この作品が伝えたかったこととは

この作品の主題は、「人との関わり」だと思います。

人との関りが極度に苦手な女性の主人公を通して、人と関わることに伴って生じる様々なわずらわしさ、すれ違い、感情のやりとりを描いています。

ここで注目すべきは、主人公がいつも意識している主人公の上司の女性です。

この女上司は、主人公が何か失敗しても、温かく受け入れます。

パワハラ、セクハラ、モラハラ。

ハラスメントをしてはいけませんと、叩きこまれてきた女性上司。

本来は怒るべきところも、全く怒りません。

感情を押し殺して、嫌なことをされても、笑顔を浮かべて、生きている。

その姿は滑稽ですらあります。

そこまでして、人と関わらないといけないのか

この作品は、そう問いかけているのではないかと思います。

そして、主人公の体を張った表現により、人と無理に関わろうとしなくたって、個として、生きていくことはできるんだということを伝えたかったのではないかと考えます。

題名になっている「退屈」とは、屈して退くという意味だと、作中に出てきます。

人間関係が苦手なら、屈して退いたっていいじゃない

そういうふうに言ってくれているように感じました。

おわりに

とにかく、ハチャメチャで、何がどうなっているのかわからないことが多く起こりますが、これは、小説だからこそ表現できた芸術作品なのではないかと感じました。

おススメです。

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