『雨滴は続く』西村賢太
📁その他 【私の評価】★★★★☆(85点)
西村賢太さんと言えば、日本を代表する私小説家の一人です。
芥川賞受賞時のインタビューでの、あの答えは、世間にちょっとした衝撃を与えました(笑)。
西村さんらしい、飾らなさが出ていました。
本作ですが、正直、人によって好き嫌いが分かれると思います。
そしてこの作品に、文学性のようなものがあるのかは、私みたいな素人にはわかりません。
ですが、この作品には「生身の人間」を感じることができるのです。
ストーリーのような、嗜好を凝らしたものはありません。
この作品にあるのは、ただの「流れ」です。
雨が降って、その雨滴が集まって、川に向かって流れていくような、「自然な流れ」です。
物書きをしている主人公が、雑誌に掲載されては一喜一憂し、二人の女性の間を揺れ動いては一喜一憂しながら、流れていく時間を、そのままに書き連ねています。
読んでいて、ここまで自分勝手で、言いたいこと、やりたいことをつらつらと書き連ねていくことが、あっていいのかと思ってしまいました(笑)。
ですが、本来、人間とは自分勝手で、自分本位で、これこそが自然なのかもしれないと、思ったりするのです。
プッと噴き出してしまうくらい、正直に書いてあるのです。
普段の私たちは、どこかしら飾っていて、格好をつけたり、体裁を保ったり、時には自分の心に嘘をつき、そうして生きている、それが人間という生き物だと、思っているのだと思います。
ですが、この作品には、普通は恥ずかしくて隠すようなこと、絶対に人には言えないことが、そのまま書いてあります。
偽りのない、人の心。
私小説は、人間の素のようなものを、そのまま照らし出してくれます。
文末には、「連載最終回の執筆途中に筆者が急逝したため、本作は未完の遺作となりました」と添えられていました。
西村さんのご冥福をお祈りいたします。