📁ドラマ 【私の評価】★★★★★(99点)
NHK連続テレビ小説「ばけばけ」(主演:髙石あかり 脚本:ふじきみつ彦)
あらすじ(第20回「フタリ、クラス、シマスカ?」まで)
舞台は、明治8年(1875年)。
主人公の松野トキは、松野家の一人娘です。
しっかりした娘ですが、一つだけ変わっている点がありました。
それは、母親に似て、怪談が好きなことでした。
トキは、父と母、祖父の三人で暮らしていました。
父と祖父は、明治となって武士の時代は終わったにも関わらず、時代の変化に馴染めず、未だ髷を結い、武士として過ごしていました。
しかし、暮らしていくために、父はウサギの投機事業を始めます。
これが見事にこけて、一家は莫大な借金を背負い、トキも働くことになります。
この一家の窮地を救う手段として、松野家は婿をもらうことに奔走します。
そして、松野家に来てくれたのが、銀二郎でした。
銀二郎は、松野家の借金を返すために一日中、働きます。
また、銀二郎は、松野家の跡取りとして、祖父から厳しい(時代錯誤の)剣の訓練も受けます。
耐え切れなくなった銀二郎は、ついに出奔し、一人東京へと逃げます。
感動の第20話について
大事な婿に逃げられた祖父は、家宝の鎧などを売り払い、そのお金で、トキに、東京に行って婿を連れ戻してくるように命じます。
ですが、祖父は既にこの時に覚悟を決めていました。
トキはもう島根の松野家には戻って来ないかもしれないことを。
トキは松野家の子ではありません。
生まれた時に、子供がいなかった松野家に引き取られた子でした。
それに松野家には莫大な借金があります。
東京で再開した銀二郎は、松野家には戻らないことを告げ、トキに東京で二人で暮らそうと言います。
トキの心は揺らぎます。
東京で暮らした方が、借金から解放され、好きな銀二郎と一緒に楽しい暮らしができる。
ですが、トキの出した答えは、一人で松野家に戻ることでした。
これからは西洋文化だと誇る島根出身の若者たちの前で、そして銀二郎に向かって、トキは涙を流しながら、一人で戻ることを告げます。
トキだって、好きな銀二郎と東京に居たいのです。
ですが、自分を育ててくれた松野家の人々を見捨てることなんてできない。
銀二郎が、借金だらけの松野家に戻りたくないことも痛いほどよくわかる。
だから、自分が一人で戻ることにしたのです。
なんと恨めしいことでしょう。
恨めしいとは、こういう時の心境のことを言うのだと、つくづくわかったような気がします。
今までの19話については、第20話の涙ながらのトキのシーンのためにあったと言っても過言ではない気がします。
父が作った莫大な借金、祖父や父の時代錯誤な武士を続けることへのこだわり、トキが本当は松野家の子供ではなかったこと、牛乳配達をする父が家族のために持ってきた牛乳を松野家のみんなで笑いながら飲んだこと。
それらが全てつながって、トキの悲しく恨めしい心境が、見る人にも痛いほど伝わってくるのです。
松野トキについて
松野トキ役(主人公)の髙石あかりさん。
目の大きさはキュートでいて意思の強さを感じさせ、落ち着いた演技が、素晴らしいと思います。
中でも、第20話で、銀二郎に向かって、涙ながらに東京で二人で暮らすことはできないと告げた時の、髙石さんの演技と演出が、とても秀逸でした。
「ばけばけ」は、第一話から、あまり良いことは起こりません。
むしろ悪いことばかりが起こります。
ですが、トキは泣かないのです。
唯一、本当の父親だった雨清水傳(うしみず でん)が病気で死んだ時に、トキは父母に「取り乱してきます」と言って家を出ます。
そして、取り乱し、初めて泣くのです。
でも、その時でさえ、トキの泣き顔はあまり映されません。
そして、第20話。
ずっと、静かに涙を流す、トキの顔が映し出されます。
だから、ぐっとくるのです。
これ以上、私のつたない文章表現で表すことは難しいので、是非、ご覧いただきたいと思います。
時代背景について
「ばけばけ」の舞台である明治維新は、人々に様々な生活の変化をもたらしました。
中でも、士農工商という身分制度が音を立てて崩れ落ちたことが、特徴的だと思います。
そして、一番とまどったのは、武士だったことは想像に難くありません。
今まで身分的に頂点に君臨していましたが、突然、他と同じ平民にさせられたのですから。
俸禄を治めてくれる農民などもいなくなり、身分的には一番下だった商人を見習って、自らも商売を始めなくてはなりませんでした。
今までの武士の本懐、人生観、哲学など、無用の長物、時代遅れのものとしてかなぐり捨てられ、生きていくために、慣れない商売を始めなければならない。
そして、商売を始めたはいいけれども、商売のイロハもわかっていませんので、その多くは失敗します。
武士にとっては、明治維新というのは、驚天動地の災難であり、恨めしさの極みだったと思います。
もちろん、武士の中でも、そうした変化にすぐに順応していった人もいるでしょう。
「散切り頭を叩いてみれば、文明開化の音がする」
そう言って、すぐに髷を切り落として、西洋文明に溶け込んでいく人もいたでしょう。
ですが、松野家の祖父と父は、そうではありませんでした。
三百年弱、続いた江戸時代で、先祖代々、武士の教えを守って、祖父から父、父から子へと、武家を守ってやってきたのです。
祖父と父は、なかなか髷を落とそうとしませんし、武士の生き方を変えようとしませんので、見ていて、随分と意固地だなと、歯がゆくなります。
ですが、変化することに時間がかかることは当然のことなのです。
いろんなことがあって、最終的には時代の流れの中に飲まれていきますが、その過程にとても悲哀を感じます。
武家である松野家の根底には、時代に対する恨めしさがあります。
ですが、それでも何とか苦境を耐えて、変わって、乗り切っていく。
「ばけばけ」で描かれている松野家の、時代の変化に翻弄され、苦しみ、恨めしさを抱えながらも、化けていく、変わっていく姿に、私たち見ている人の胸は熱くなるのだと思います。
おわりに
21話以降は、また新たな展開が始まります。
「恨めしさ」を持った人々がどんな姿に「化けて」いくのか。
これからも楽しみです。





