『同志少女よ、敵を撃て』逢坂冬馬
📁ハードボイルド小説 【私の評価】★★★★☆(85点)
なぜ人気なのか
「同志少女よ敵を撃て」
この作品の題名を、一度は聞いたことがある人が多いのではないでしょうか。
なぜ人気なのか。
読んで見た感想として、この人気が出た一端は、題名と表紙にあると思います。
雪原で、少女がスナイパーライフルを構えて、敵を狙っています。
そして、裏表紙を見ると、その少女の背後には、教官のような女性が控えています。
もうこれだけで、目を惹きますよね。
また、単なる「少女」ではなく、「同志少女」としたことも、興味を惹いている秘訣だと思います。
「同志少女」なんて、聞き慣れない言葉ですからね。
同志、少女、スナイパー。
どんなお話なんだろうと思わせていることに成功しているがゆえ、この作品は人気があるのだと思います。
あらすじ
作品の舞台は、第二次世界大戦でのソ連とドイツの戦争です。
主人公のセラフィマは、ソ連の田舎の小さな村で、お母さんとともに狩猟をして細々と生活していました。
そんなある日、敗走してきたドイツ軍が、腹いせに、セラフィマの村の住民を襲い、女性を強姦し、皆殺しにしたのです。
セラフィマだけが、たまたま生き残ることになります。
それは、ソ連軍のイリーナという凄腕のスナイパーが助けてくれたからです。
「死ぬか、戦うか」
イリーナに問われたセラフィマは、復讐のために戦う狙撃手(スナイパー)となっていくのです。
撃つべき真の敵とは?
セラフィマはソ連軍の兵士ですので、撃つべき敵はドイツ兵となります。
物語も、セラフィマが次々にドイツ兵を殺していくことで展開していきます。
しかし、物語の最終盤では、セラフィマが照準を絞った敵は、ドイツ兵ではありませんでした。
ネタバレになりますので、具体的には書きませんが、それは予想外の敵でした。
戦争とは何か。撃つべき敵は誰なのか。
考えさせられる仕掛けとなっています。
同志少女とは?
同志とは、伝統的には社会主義国において使われた言葉であり、左翼的な色彩を帯びています。
イリーナにスカウトされたのは、主人公のセラフィマだけではありません。
シャルロッタ、ヤーナ、アヤ。
みんなソ連軍の狙撃手となった「同志」です。
ですが、個々の人間を見ていくと、戦う理由はそれぞれ違います。
本当の「同志」とは、志を同じくする者のこと。
物語の最終盤で、真の敵を見つけたセラフィマとイリーナ。
イリーナはセラフィマに向かって叫びます。
「同志少女よ、敵を撃て!」
セラフィマの銃弾は、敵に向けて一直線に飛んでいきました。
「戦争は女の顔をしていない」
この作品に度々登場する、「戦争は女の顔をしていない」という言葉。
この言葉は、1985年に出版された、スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチによる、ベラルーシのノンフィクション小説の題名です。
第二次世界大戦の独ソ戦で従軍した女性たちの証言をまとめた作品です。
第二次世界大戦時のソ連軍では、80万人から100万人の女性が戦地に行ったとされています。
従軍した女性兵士は、性的な偏見を持たれることも度々だったようです。
また、戦場から帰還した男性は英雄扱いされますが、他方で女性が賞賛されるのはごく一部です。
そのような男の戦場の中で、セラフィマたち同志少女の狙撃手が守ろうとしたものは何だったのか。
それこそが、この物語の主題であることは間違いありません。
おわりに
ネタバレしないようにご紹介したつもりです。
本作品は、ハードカバーで479ページもある大作です。
ページを開くと、そこには残酷な戦場があり、同志少女たちの戦いがあります。
こんな世界があったのだと思える作品です。