光のそこで白くねむる(待川匙) 第61回文藝賞受賞作品のあらすじと感想&考察

新鋭の注目小説

📁新鋭の注目小説 【私の評価】★★★★★(91点)

あらすじ

上京して土産物店で働く男性が主人公です。

フリーターのような生活。

このまま同じような日々が過ぎていくのかと思いきや、店主が事件を起こして、突然、店が閉鎖されます。

手切れ金として数万円をもらい、使い道に困って、故郷に墓参りに帰ることにした主人公。

今を生きる主人公が、過去の時間を振り返り、幼馴染のキイちゃんとの会話を通じて、何が本当で何が虚構かわからなくなるワールドに入っていくという物語になっています。

この作品の特徴

この作品には、まるでホラー作品であるかのような「怖さ」があります。

何が怖いのか。

主人公が生まれ育った土地、場所、そこでの過去の出来事が怖いのです。

故郷である土地や場所は、過去の人の生き死にが、息づいています。

そして過去の出来事は、唯一無二の事実としてそこに存在しているのではなく、認識の違いや錯誤により、時として全く逆のこととして記憶され、キイちゃんとの会話によって否定され、何が本当かがわからなくなっていきます。

ただ一つ、確かなこと。

それは、です。

過去の出来事が本当ならば、きっとその土地にはその骨が埋まっているはず。

骨があることこそが、本当にあったことだということを証明してくれる。

だからこそ、私は骨があるのか掘り返して、その骨がどんな形をしているのか、確かめたいと思う。

題名の「光のそこで白くねむる」ものとは、ずばり骨のことを言っているのだと思います。

過去の手触りは、実はとてもあいまいなもの。

この作品を読んで、過去のあいまいさ、そして過去によって支えられていると信じている自分の不安定さに、身震いをし、背中をサッと何か冷たいものが吹き抜けていく怖さを感じました。

おわりに

自分の故郷。

久しぶりに帰ってみると、大きな道路が出来たり、駅前が整備されたりして、昔の面影が全然なかったりします。

それを見ると、自分の故郷が変わってしまったことに寂しさを感じるものです。

昔はあそこにこれがあって、あんな人とこんなことを話をして、こんな出来事があって……。

でも、自分が記憶している昔、故郷、出来事などは、本当にあったことなのでしょうか。

不安に駆られ、整備された道路を掘り返して、そこに昔の痕跡を探して確かめたい。

そんな気にさせる、少し恐ろしげな作品でした。

タイトルとURLをコピーしました