『紙鑑定士の事件ファイル 模型の家の殺人』歌田年
📁ミステリー小説 【私の評価】★★★★☆(85点)
1.感想
とても面白かったです。
本作品は、第18回このミステリーがすごい!大賞の大賞受賞作品です。
何といっても、主人公が、紙鑑定士という変わり種であることが、この作品の最大の魅力です。
ハードカバーからして凝っています。
表紙、帯、見返し、別丁扉、貼り込みで、四種類もの違う種類の紙を使用しています。
手触りや色が違って、この作品の世界観にスッと入っていくことができる仕掛けだと思います。
主人公の渡部は紙鑑定士で、紙の販売代理業もやっている小さな事務所を構えています。
そこへ、探偵事務所だと間違えた依頼が舞い込んできます。
探偵業務などしたことがない渡部ですが、自分の人脈をフル活用して、何とか真相にたどり着こうとします。
探偵でもない、紙鑑定士という役に立つかどうかわからない特技をもっている人物が、事件を追っていくところに、この作品の面白さがあります。
この作品は、2つの別の事件から成ります。
1つ目の事件は、いわゆる物語の助走のようなもので、2つ目の事件が本格的な事件となっています。
ライトな感じで楽しめる、そんなミステリー作品ですので、おススメです。
2.蛇足(強いて言うなら)
個人的には、1つ目の事件のようなものが2~3つある方が面白いと感じました。
本作品は、1つ目は軽い事件で、2つ目が本格的に重い事件となっています。
1つ目の事件は、ライトで気軽に楽しめ、場面展開も軽やかです。
一方で、2つ目の事件展開や設定に、ところどころ強引さを感じました。
細かい点かもしれませんが、以下のとおりです。
・土生井は、プラモデルの先生にも関わらず、推理が鋭すぎて不自然。
・土生井の母が、いつの間にか亡くなっている設定が不自然。
・事件の内容が重すぎて、紙鑑定士が関わるにしては、深刻すぎる。
・物語終盤で出てくる主人公の恋人のような存在の登場が、都合良すぎる。
・事件の犯人の動機も釈然としない。
2つ目の事件は、重く複雑で本格的なミステリーなので、変わり種の主人公の設定とのギャップがどんどん開いてしまうように感じました。
紙鑑定士という設定でとても成功している主人公ですので、軽い事件を何個も扱う方が気楽に楽しめ、シリーズ化もありうる、それくらいの可能性を感じさせる主人公の設定だっただけに、扱う事件が重すぎた点を残念に感じました。
ですが、それを含めても楽しめる作品です。
(ちなみに、紙鑑定士の事件ファイルは、その後、何作品も出ているようですので、シリーズ化できる魅力ある主人公という点は間違ってなかったようです)