📁ミステリー小説、新鋭の注目小説 【私の評価】★★★★★(95点)
第27回日本ミステリー文学大賞新人賞の受賞作です。
複数の謎が織り込まれていて、推理が楽しめます。
以下は、ネタバレを含みますので、ご注意ください。
主人公の夫である隼人と、その同僚の宇月は、味方同士なのか、敵同士なのか、推理に苦労しました。
そして、結局は予想を裏切られ、楽しめました。
最後のどんでん返しを用意していたのは、さすがですね。
そして、ずっと思わせぶりだったハルの正体も、最後に明かされ、めでたく全ての伏線が回収されています。
もちろん、さすがに都合がよく書きすぎていないだろうかという箇所もあります。
例えば、宇月がけしかけた子供たちの喧嘩は、必ずしも不幸な結果につながるとは限らなかったはずです。
また、宇月の父親の死因が、宇月の動機になっていますが、都合よく作られた印象が否めませんし、そうだとしたら、隼人がそれを全く知らないということも不自然です。
さらに、時計を見たというハルのセリフに対して、いつどこで見たのかという主人公の問いが複数回されますが、いずれもはぐらかされます。
そのうちの1回は、宇月のせいで、ハルが言いよどんだように匂わされています。
ですが、結果的にハルが時計をいつどこで見たのかという情報は、真相にはそれほど重要ではありませんでした。
ヒントも多く出しつつも、そのうちのいくつかは(意図的なのかわかりませんが)ミスリードを誘うものだったと思います。
これもミステリー作品のテクニックだと思いますが、同じことを複数回されてしまうと、読者はどうしてもそこが重要ということなのではないかと気がとられ、フェアではないと感じますので、せめて1回に留めてほしかったというのが正直な感想です。
そういった気になる点はいくつかありました。
一方で、「殴る」ということが元凶であること、そして「時計」が人の結びつきを象徴していることなど、この作品に一貫して流れるテーマは見事だと思います。
全体的に、いろんな謎やヒントが散りばめられていて、受賞作にふさわしい作品だと思います。
なお、一つだけもったいないと感じるのは、題名です。
応募時の題名は、「警察官の君へ」だったようです。
確かにこの題名よりは、「燃える氷華」の方が、断然いいと思います。
元の題名も、主人公、隼人、ハルの三者への共通の呼びかけを表していますし、読者もどんな物語だろうと気を惹かれると思うので、よいと思うのですが、どこか説法じみているかと思うからです。
一方で、改題の方ですが、元の題名よりはいいのですが、個人的には、なぜ「氷華」とつけたのかが、読んだ後もわかりませんでした。
ドライアイスのことを指しているのかもしれませんが、なぜドライアイスが氷華なのかわかりませんし、物語の中に「華」をイメージできるような華やかさは全く出てきません。
全くの個人的な感想で恐縮ですが、「凍結の時計」とか、この作品のテーマを持ってきてもよかったのではないかと思いました。