敵を完全に叩きのめすことがベストではない 「歴史に残る外交三賢人」

世の中のリアル

『歴史に残る外交三賢人 ビスマルク タレーラン ドゴール』伊藤貫

📁世の中のリアル 【私の評価】★★★★★(94点)

この本を読もうと思ったきっかけは、2022年、岸田総理大臣が夏休みに書店に行って購入したとニュースで見て、気になったからでした。

総理大臣が読むような本を、自分も読んで見ようという、ある意味ミーハーな軽い気持ちでした。

この本を読んだ後、外交に対して持っていたイメージが根本から変わりました

以前は、テレビニュースなどで、国の偉い人が会談をして、お互いの立場を主張して、重要なことはあまり何も決まらずに平行線で終わってしまうことを繰り返し見聞きしていました。

会って話して、表面上は仲良くして、話し合えるルートを保っておくために外交をしている

という程度で理解していました。

私は知りませんでした。

外交官は、どのようなことを考えて交渉しているのかについて。

そして、外交と戦争は表裏一体です。

国と国との争いで、外交で解決できずに切羽詰まれば、戦争につながっていきます。

外交を考えることは、戦争を考えることでもあります。

本書を読んで、戦争についての考え方も変わりました

以前は、(あまり考えたくはありませんし、そうならないことを願いますが)不幸にも戦争になってしまったら、敵国を完全に叩き潰すことが最良の結果だと思っていました。

しかし、本書の中で記載されている、ドイツ帝国を創設してドイツの統一を果たしたビスマルクの以下の考え方に触れると、自分の思慮が足りなかったことに気づかされました。

 そもそも「戦争に勝つ」ということと、その戦争の後に「政治的に有利な立場を確保する」ということは、全く別のことである。戦勝してロシアの領土を大規模に割譲させても、そこに住んでいる異民族を我々は統治できるのか? 我々は際限のない政治紛争と民族紛争に巻き込まれることになりかねない。我々はフランスから領土をとったため、西のフランスと永続的に対立することとなった。今度は東のロシアから領土をとれば、ドイツに恨みをもつフランスとロシア領国に挟まれた状態で生きていくことになる。そんな状況が、我々にとって有利な国際環境になると思うのか。戦争というのは始めるのは簡単なのだ。しかしドイツ軍部はどのようにして対ロシア戦争を終結させるつもりなのだ。この戦争を実行すれば、その後の欧州外交の諸問題は複雑化して不確実性と危険が増えるだけだ。ドイツの将来はますます不安定なものになり、今後の欧州にとって悲劇的な結果となるかもしれない。

出典:「歴史に残る外交三賢人 ビスマルク、タレーラン、ドゴール」 伊藤貫著 より。

このビスマルクの憂慮は、のちに現実のものとなってしまい、ドイツは二度の世界大戦に入っていくことになります。

本書では、ビスマルクの他にも、フランス革命時代から長年に渡りフランス政治に君臨したフランス外交官のタレーラン、フランスの核武装やNATOの軍事機構からの離脱などを実現したフランスの大統領ドゴールを取り上げています。

本書曰く、国際政治史を学ぶのに最も役に立つのはビスマルクであり、本書のページの大半を割いていますが、あとの二人についても、最もエンターテインメント・ヴァリュー(娯楽的な価値)が高いのはタレーラン現在の日本外交の苦境を理解するのに最も役立つのはドゴールと評し、それぞれの特徴ある外交スタンスを解説しています。

中でも、ドゴールについては、核武装や国の独立についての考え方において、現在の日本が考えなければならないことを突き付けているような気がします。

今の世界情勢に目を向けると、2023年に入っても、ロシアによるウクライナ侵攻は続いており、終わりが見えていません。

戦争のない世界を実現・維持していくための外交のあり方について、本書から学ぶべき点はとても多いと感じました。

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