『植物少女』朝比奈秋
📁新鋭の注目小説 【私の評価】★★★★★(98点)
凄い小説を見つけてしまいました。
出産により、植物状態になってしまった母と、その娘みおちゃんの物語です。
ここに人間の全てが詰まっています。
植物状態は、ずっと続きます。
誤解していましたが、植物状態になっても、食べ物を口に持っていけば、自分で咀嚼するのです。
全く身動きが取れないわけではなく、目を開けたり、閉じたり、痛かったら手を払いのけたりします。
みおちゃんは、植物状態のお母さんとどう関わっていくのか、その内容は衝撃でした。
みおちゃんは、横たわっている母にいろんなことをします。
お母さんの耳に勝手にピアスを開けたり。
貰い物のマカロンを、お母さんの口に力いっぱい押し込み、吐き出させないようにして苦しませたり。
父が浮気していることを耳元で吹き込んだり。
そして、お母さんの胸の中で一緒に眠りに落ちたり。
みおちゃんが生まれた時に、お母さんは植物状態になりました。
ですので、みおちゃんは植物状態のお母さんしか知りません。
お父さんに、元気だったころのお母さんの写真を見せても、みおちゃんにはピンときません。
植物状態のお母さんが、みおちゃんにとってのお母さんなのです。
お母さんは、ただ呼吸を続けるだけです。
お母さんがする呼吸のリズム。これこそが、みおちゃんにとっての母なのです。
蛇足ですが、個人的に残念だったのが、2点あります。
一つ目は、中学生のみおちゃんが走り出す場面です。
走って、息が切れて、一心に呼吸をするだけの存在になって、お母さんを感じます。
そこまではよかったのですが、そこに価値判断を入れて、お母さんは充実した今を生きている、お母さんはかわいそうじゃないと結論づけるところに、少し軽薄さを感じました。
もう一つは、大学生になったみおちゃんが、病院に行った際に、まるでお母さんが回復して、受け答えできるまで回復したかのように、読者に錯覚させるところがあります。
勝手に私が錯覚してしまったのか、作者が意図的にそのように仕込んだのか、私は後者だと思います。
確かに、それによって、新たな展開を想像します。
ですが、それが違ったと知った時の読者の落胆もまた大きいのです。
ですので、ここはそんな技巧を使う必要はなかったのかなという感想を持ちました。
そういう点を置いておいても、この作品の鋭さは、目を見張るものがあります。
どんな作家さんなのだろうかと調べると、朝比奈秋さんは、医師でした。
その後、執筆に専念されているようです。
この作品のところどころに、医師でないと書けないような、リアルな描写や表現があります。
現実世界にべったりと張り付いて、日常に現れる残忍さ、冷酷さを描き、それを人は受け止めて、消化して、消化不良を抱えながら、生きていく、そういう物語だと感じました。
是非、ご一読ください。