世界に色を付けましょう 小説「色彩」(阿佐元明)の感想と解説&考察

感動小説

📁感動小説 【私の評価】★★★★★(98点)

あらすじ

誰しも、自分の人生で一番輝いていた、華やいでいた時期があるものです。

ボクサーで日本ランカー1位になった主人公の千秋。

絵の道を進んでいた加賀君。

ですが、そんな彩り豊かな時期は限られ、後にはその何倍もの長い、灰色の人生があります。

夢の終わりは、暗くて侘しい道

ボクサーの道を諦めた千秋。

絵の道を諦めた加賀君。

そして、千秋が働く小さな解体業の会社に、ひょろりとした加賀君が新入社員として入って来るところから物語が始まります。

社長や同僚が加賀君を可愛がる一方で、千秋はどうしても加賀君を手放しで好きにはなれません。

それはきっと、自分を見ているようだから。

昔の輝く時期は戻ってはこない。

でも、だからと言って、その後の残りの長い人生は灰色のままなのだろうか。

形は違っても、色を付けることができる、人それぞれの別のキャンバスがあるのかもしれない

そんなメッセージを、この小説から受け取った気がします。

この小説は、夢破れて、その後の人生を歩むすべての人に向けた、応援歌のような作品なのではないかと思います。

加賀君の存在

小説には、よく「触媒」が必要と言われます。

日常の中に、異物(触媒)が入ることで、今までの人間関係や感情に変化が訪れ、かき乱され、展開し、そして変化が受け入れられて新しい形に辿り着く。

この作品の触媒は、加賀君です。

加賀君が会社に入って来ることで、千秋の内面への影響、そして千秋を取り巻く人間関係にも徐々に変化が訪れます。

加賀君のキャラクターもまた頼りなさげで、惹きつけられます。

加賀君がいたからこそ、この物語が成立したのだと言えると思います。

太宰治賞

この作品は、第三十九回太宰治賞を受賞しています。

太宰治と言えば、『人間失格』、『走れメロス』、『斜陽』などの名作を残した大作家ですが、私生活においても複数の自殺未遂を起こし、最後は入水自殺で亡くなったとされており、壮絶な人生だったことが伺えます。

この「色彩」という作品にも、人間の奥底に心情に迫るものがあります。

また、作品冒頭には、主人公の千秋が、シンナーで頭をクラクラさせている、衝撃的なシーンから始まります。

加賀君についても、下戸のくせに、自分を痛めつけるように、毎晩、店で潰れるまで痛飲を重ねます。

弱い面を持つ登場人物が、いろんなところにぶち当たりながらも、立ち上がり、自分と向き合って、前を向いて踏み出していく、そんな作品だからこそ、この賞にふさわしいと選ばれたのかもしれません。

おわりに

いかがだったでしょうか。

日常を生きることに、少しの勇気を与えてくれる、そんな作品だと感じました。

ご興味を持たれた方は、是非お読みいただければと思います。

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