記憶がなくなる男の終着点「わたしが消える」

ハードボイルド・警察小説

『わたしが消える』佐野広美

📁ハードボイルド・警察小説 【私の評価】★★★★★(90点)

認知症の宣告を受けた元刑事の藤巻が主人公です。

これから徐々に記憶を失くしていく恐怖が、藤巻の脳裏をよぎります。

そんな矢先に、藤巻のもとに、身元不明の老人「門前さん」の調査依頼が舞い込みます。

門前さんは、老人介護施設の門の前に一人で置いて行かれたことから、その名前が付けられました。

身分を確かめることができるものは何も持っていません。

藤巻は、調査を開始し、元刑事の実力を遺憾なく発揮します。

そしてて、ついに門前さんの正体を突き止めます。

そこには、「門前さん」の、社会から裏切られた、悲しい物語がありました。

「門前さん」は、社会から抹殺された存在だったのです。

藤巻は、自分を「門前さん」に重ねます。

藤巻も、認知症で記憶を失っていき、自分が何者かわからなくなる、自分が消える恐怖を抱えているからです。

そして、「門前さん」が生きた証を見て、「わたしが消える」前に、藤巻はすべきことを見つけることになります。

生あるものは、いつかは消えます。

消える前に、何をなすべきか。

本作品は、そのような人間の根底まで問いかけているような気がしました。

第66回江戸川乱歩賞受賞作です。

是非、ご一読ください。

タイトルとURLをコピーしました